今回はしゃがむ、立ちあがる動作について書いていきたいと思います。

まずは「しゃがむ動作」に関してです。基本的に動作を行う際は、関節を動かす順序、手順を考える必要があります。動かす順序が不適切であれば、スムーズな動作を行うことは難しくなります。

立位姿勢からしゃがむときには、主に足関節、膝関節、股関節の三関節が動くことになりますが、その中で、最初に動かす関節は「足関節」になります。なぜかというと、重力を受けている体は地面に近い方から崩れていくことが自然だからです。また、下肢の屈筋スリングは足首→膝関節→股関節の順番で曲がっていくことが適切だからということもあります。逆に伸筋スリングは、股関節→膝関節→足関節の順に伸ばしていくことになります。


筋スリングというのは、関節を動かすときの筋肉の連動性のことで、自然な動きであれば、筋肉はスムーズに連動することになります。立位姿勢から最初に足首から緩めることで、足関節、膝関節、股関節は自然に動いていきます。

ここで、立位姿勢の足の置き方に関して書きたいと思います。足のつま先方向は、内果と外果の位置関係からもわかるように、15度程度外を向いていることが自然です。この角度は人によって微妙に違いがありますが、立っているときの足を置く位置は、少し外へ向けるいうことになります。足裏の母趾球、小趾球、踵の三点に体重が支持され、下腿部がリラックスしているポジションを見つけることです。


足幅に関しては、股関節幅を基準にします。骨盤幅より少しだけ幅を狭くした位置です。股関節の幅に足を開くことで、下肢はまっすぐ伸び、筋肉のバランスが整っている状態になります。この位置とつま先の方向を微調整し、下肢の力が抜けている位置を定めていくことです。

立位姿勢が決まれば、次に重心を沈めていきます。重心の位置は胸でも鼻でも構いません。自分で重心位置を決めることです。今回は胸に置くこととします。


立位姿勢から最初に足関節を緩め、重心を10cmほど真下に沈めて、体重を足裏全体で支持します。足関節は脛の骨が前方へ滑ることで曲がり、膝が少し前方へ移動します。一般的にしゃがんでいく時には、膝を前に出してはいけないといわれることが多くあります。しかし、そもそも膝関節は前方へ移動しないと、しゃがみ込んでいくとき、完全に膝が曲がる運動は起こりません。

まずはこの最初の動きを丁寧に行うことが大事になります。ポイントは足裏全体に体重をかけること、下肢の筋肉の緊張度を一定にすること、なにより上半身も含め、全身がリラックスしていることが大事です。動作を繰り返し行い、動きを認識することです。

少し重心を沈めたら、次はその状態から足を外に向けることで、股関節を外へ捻ります。そうすると中間の膝関節も自然に緩んで開きます。要は、脚全体を外へ捻る運動を行うということです。そうすることで、脚の関節は更に曲がりやすくなり、自然なしゃがみ動作に誘導できます。

足を外へ開く時は、足裏と床とが接地していれば摩擦が起こります。ですから、フローリングのような床が滑りやすい場所、もしくは回転盤のような物に上に乗って行うことで簡易に行うことができます。それらが難しいときは、少し足首を上げ、踵を支点に足を開いていくとスムーズな動きになります。

スムーズに足を外への開くことができれば、更に重心を沈めていく段階にはいります。しゃがみ込みでの股関節の動きは股関節上で骨盤が運動します。骨盤は前方に傾き、お尻がやや後方下方へ移動することになります。お尻が沈んでいくということは、同時に膝関節が曲がる運動が自然に起こります。

しゃがみ込むまで重心を沈めていくと、股関節は90度を超えたところからボトムまで骨盤は後傾し、背骨は曲がる運動が起こります。一般的にしゃがむ動作の指導では、背骨をできるだけ真っすぐに維持しようとするケースが多いと思います。しかし、股関節の運動から考えると、骨盤の後傾によって背骨は丸く弯曲していくことが自然です。過度な背骨を反らせる意識は、腰痛を誘発させる要因になると考えられます。

しゃがみ込んだボトムの位置では、背骨は弯曲して自然なアーチになり骨盤は後傾します。当然股関節、膝関節、足関節も最大に曲がった状態であり脚はМ字になっているはずです。足裏全体に体重が乗り安定します。この一連の流れがしゃがむ動作です。

次は立ち上がりについてです。ボトムまでしゃがみ込んだら、次は股関節から動き出すことを意識します。股関節を伸ばしていく、もしくは頭の先から引っ張られるイメージでもいいです。

重心が上方に移動したら、同時に膝を閉じていきます。つまり、しゃがみ込むときとは逆で、大腿部と足を内へ戻していくということになります。脚が伸ばされながら、内へ戻される動きが同時に起きることになります。単純な関節の曲げ伸ばしではなく、捻り動作が入ることで大腿部の筋肉はバランスよく利用される事になり、膝への負担は軽減され、楽に上方へ移動することができます。

下肢が伸ばされる過程で股関節が90度を超えると骨盤は前傾し、脊柱は伸ばされていく動きになります。これはあまり意識しなくても自然にそうなります。そのまま立ち上がりきると、元の立位姿勢に戻ります。


ここまでの説明が自然なしゃがむ、立ち上がる動作です。動きのスタートは足首から緩めることです。そうすると、膝が前方に移動し、自然な下肢の関節運動が起こります。重心の動く方向は、一連の動作中は鉛直方向に動きます。当然足裏の三点支持を崩してはいけません。次は足を外へ向けて脚を外へ捻りながらしゃがみ込んでいく事です。

適切なしゃがみ立ちができないケースでは、重心の位置が前方や後方に移動しているはずです。そうなれば、当然スムーズな動作は完成しません。適切な関節の順序で動かし、関節がスムーズに運動すれば、自然なしゃがむ、立ち上がる動作が簡易にできます。



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