・体を動かすことの重要性
体を動かさないことは、筋肉を動かさないことになりますから、筋肉は緊張して硬くなり、筋肉が硬くなると筋肉を覆っている筋膜や体表面の皮膚も硬くなって動きが悪くなります。
血液やリンパの流れが悪くなり、心臓が全身に酸素を供給する能力が下がり、体を移動させることが辛くなって余計に動くことが億劫になるのです。このように体を動かさないことによって様々な体の問題が現れることを廃用症候群(はいようしょうこうぐん)といいます。
人は体を動かし続けないといけない生き物です。家に引きこもるのではなく、外に散歩に出たり、スポーツをしたり、関節を動かしたり、深呼吸したり、体を動かすことが大事です。特に高齢者は体を動かさないことで体力の低下が顕著に現れますから、運動量が低下することは大問題となります。
・主働筋をメインにしたトレーニングについて
最近では筋トレが少しブームになっているようです。体を衰えさせないために、筋肉を鍛えよう、筋力を強くしようと筋トレを始める方も多くおられます。
そこで、筋トレの方法を調べてみると、マシン、ダンベル、バーベルなどのウエイトを利用し、筋肉を部位別に分けて刺激することが良いといわれています。トレーニングの教本にもそのようなトレーニング方法が書かれています。
例えば、ベンチプレスでは大胸筋、スクワットでは大腿四頭筋、腹筋や背筋を鍛えようをといったことです。これらは、その動作のメインとなる筋肉(主働筋)を中心に刺激する考え方です。筋肉を増やすためには、それらを10回3セット行うことを目標としていきます。
単一の筋肉への刺激が強くなりますから、部分的なストレスが大きくなり、速筋線維が刺激されれば筋肉は太くなって筋力も高まるでしょう。このような考え方が老若男女すべての方に薦められています。考え方は間違いではありませんが、このような一つの筋肉をメインにした辛いトレーニングがすべての方に当てはまるのかを考えないといけません。
主働筋をメインに刺激する考え方でトレーニングを行うと、拮抗筋や協働筋のことを疎かにしてしまいます。
主働筋を強く収縮させますから、拮抗筋、協働筋との緊張バランスが崩れてしまうのです。無理な動作でトレーニングをしていると言えるかもしれません。
基本的に体を動かすときには単一の筋肉だけが働くことはなく、動かす関節に関与する筋肉が協働して働くことで動作が可能となります。
無理な動作でのトレーニングでは、関節が捻れて不適切に動かすことになり、関節にストレスがかかることもでてきます。
さらに体重に加えて大きなウエイトを持つわけですから、関節や骨にさらにストレスがかかることは想像できます。
筋トレで関節や筋肉を痛めているケースのほとんどはこれに当てはまります。動かし方が不適切ということです。
・中間位で体を動かすこと
特別な理由がない限り一般の方に大事なことは、「日常生活で体が楽にスムーズに動くこと」ではないでしょうか。
自分の体、上肢、下肢、体幹を楽に自由に動かせる能力が必要で、生涯動ける体を作ることが目標になります。
しゃがむ、立ち上がる、腕を自由に動かす、歩く、階段を上り下りする、速く歩ける、走れることなどが楽にスムーズに行えることです。そのような動作に導くためには、主働筋と拮抗筋、協働筋がバランス良く働く動作を行うことです。
それが「中間位で動かす」という考え方になります。
中間位とは主働筋と拮抗筋のバランスがとれた状態であり、その状態で関節を適切に動かすことでスムーズな動作を引き出すことができます。
中間位で体を動かすことができれば、関節、骨、筋肉に部分的なストレスがかかることはありません。そのように動かすことをまず前提にするべきだと考えています。
例えばスクワットを行うとき、大腿部の前面と後面、下腿部の前面と後面の緊張バランスがとれた状態で動かすことです。
立つポジションは下肢の筋スリングの関係から、足関節は底屈位に置くことになります。
しゃがむときは足首から緩めることで、膝関節、股関節が自然に曲がることになり、重力によって自然に上体が地面方向に落ちていくことになります。大腿部が中間位であることから、大腿四頭筋で過度にブレーキをかけることなくしゃがみこむことができます。
立ち上がりでは、下肢伸展のメインである股関節(大腿骨)から伸びていくことになります。
足部が地面に接して固定されていることにより、脛骨上で大腿骨が伸展していくことになり、股関節の伸筋である大殿筋、ハムストリングスがメインに働くことでスムーズに立ち上がることができます。
よく聞くことの一つに、スクワットを行うと大腿部前面の筋肉である大腿四頭筋に強い筋肉痛が起こったり、膝に違和感がでるということがあります。
スクワット時のしゃがみこみ動作では、二関節筋である大腿直筋が股関節の屈曲に働き、単関節筋である内側広筋、中間広筋、外側広筋が膝の屈曲で伸張性収縮で働くことになります。
ですから、大腿部前面はスクワット時にはしゃがみこみのブレーキ筋として働くことになり、そのストレスが大きいことが問題になって上記のような問題が起こります。
これらの修正は簡単で中間位の状態での「しゃがむ−立ち上がる」動作を適切に行うことで解決します。
これは体感してみないとわかりませんが、大腿部、下腿の筋肉がバランスよく中間位で働くことで筋肉はバランス良く働き、筋緊張が整い、弾力性を持った筋肉に変化していきます。一部分への大きなストレスは感じません。
下肢の筋バランスが整いますので、脚が真っ直ぐになり、脚のスタイルアップやヒップアップにも効果的です。
また、中間位で下肢のトレーニングを行う際には、速筋線維が刺激されるように行うことです。
中間位の状態で動作を等速で行ったり、伸張反射を利用することで速筋線維が刺激され、筋力、筋肉量、柔軟性の維持が期待できます。
このように中間位で体を動かすという考え方は、全身の関節で行うことができますし、ウエイトを扱っても同様です。
特別な目的がない限り、自分の体を自由に扱える能力を維持することです。大きな力や大きな筋肉を作ろうと考えないで、筋肉の緊張バランスが整っている状態を維持し、中間位で体を動かしていくことです。
単一の筋肉ではなく、運動に関与する筋肉群をバランスよく活動させ、その中で速筋線維を刺激することが大事になります。
基本的には自分の体の重みを負荷として利用するだけで十分です。自分の体を自由に動かすことができれば、少々の負荷を扱っても問題なく動作ができます。
このような考え方を実践するには、体の使い方、動かし方を学ぶことが大事になります。
中間位で体を動かすという考え方を是非体感、実践してもらいたいです。